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陶芸家が嫉妬しそうなガラス器
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- 一見、陶器かと思わせる「新・小樽焼」。しかしよく見てみると、その透明感や色の深み、硬く艶やかな質感からガラス器だと判別できます。つまり、陶器を着想の出発点にしながらも、ガラス器の魅力を最大限に引き出している点が「新・小樽焼」の魅力であり、異彩・超絶な表現と言えるでしょう。この点は「陶芸家が嫉妬しそうなガラス器」とも評価されました。一般にガラス器と言うと、涼やかな透明感あふれる夏の器を連想しますが、これは言わば、冬の器。なぜなら、春のきざしが見え始める小樽の厳しくも優しく温かい風景を写し取った器だからです。
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ニシンの産卵時期である春の海を表現
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- 「新・小樽焼」の1つはターコイズブルーを基調にした「群来(くき)-kuki-」シリーズ。ガラス作家の木村直樹さんは開発にあたり、小樽焼を象徴する青緑色の釉薬「緑玉織部(りょくぎょくおりべ)」を出発点にしましたが、さらに自分なりの解釈を深め、小樽の春の海を表現しました。春先はニシンの産卵時期。小樽の海岸にはニシンが大挙して押し寄せ、繁殖行動をします。そのため海が淡く濁り、ターコイズブルーに染まると言います。この現象を「群来」と呼び、小樽市民に春の訪れを知らせました。木村さんは吹きガラスで白色ガラスにターコイズブルーガラスを被せ、さらに緑色、黒色ガラスを部分的に被せ、最後に透明ガラスの粒を全体にまぶしてムラの表情を生み出しました。このムラがまるで小樽焼の油滴(斑紋)のようにも見えるのです。
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汽水域や運河に氷が浮かぶ冬の風物詩を表現
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- もう1つは濃い紫色を基調にした「蓮葉氷(はすはごおり)-hasuhagoori-」シリーズ。小樽焼の中には黒色の釉薬もあり、木村さんは漆黒のような濃い紫色ガラスで、小樽の冬の風物詩を表現しました。朝晩の気温がマイナス10℃まで下がる小樽では、川が海に流れ込む汽水域や運河の水面に、丸く薄い氷が無数に張る現象が起きます。まるで蓮の葉が浮かんでいるように見えることから、その様子を「蓮葉氷」と呼んでいます。木村さんは吹きガラスで白色ガラスに濃い紫色ガラスを被せ、最後に透明ガラスの粒を部分的にまぶしてムラの表情を生み出しました。このムラがまるで「蓮葉氷」の景色を連想させるのです。
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小樽市民に馴染み深い小樽焼
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- 濃い緑色や青緑色に発色する釉薬「緑玉織部」がとろりと掛かった温かみのある小樽焼は、湯呑やぐい呑、徳利や皿などの生活雑器として、小樽市民の家庭や飲食店などで愛されてきました。明治時代から続いた最後の窯が2007年に閉じて以降、小樽焼は生産されていませんが、未だに愛好者が多いのも事実です。木村さんが小樽焼に着目したのは、独立してまもない2011年のこと。当時、自身のガラス工房に出入りしていた産業ガス販売会社の担当者が、何気ない会話の中で「小樽焼が好き。ガラスでぜひ作ってほしい」と木村さんに話したことがきっかけでした。この一言が木村さんの頭の片隅にずっと残り、いつか小樽焼を再現したいと思い続けることになりました。
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新・小樽焼で小樽ガラスの未来を拓く
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- 小樽焼をガラスで再現するチャンスは、2017年に訪れました。レクサス主催のプロジェクト「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT 2017」で北海道の「匠」に選ばれ、腰を据えて取り組めることになったのです。その時、残念ながら、小樽焼に目を向けるきっかけを与えてくれた先の人物はすでに故人となっていましたが、木村さんは小樽焼を再現する意味を改めて自問自答し、小樽市民に再び愛される器のあり方を思索しました。その答えが単なるレプリカではなく、ガラスとしての魅力を十分に備えた器であり、小樽の美しい風景を写し取った器だったのです。こうして「新・小樽焼」は誕生しました。また、小樽はガラス工芸産地として有名ですが、現在は観光土産の生産が主です。「新・小樽焼」には、小樽市民にもっと深く愛される「小樽ガラス」の未来を拓く夢も込められているのです。
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厳しい修行を経て高い技術を習得
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- 木村さんは小樽市内の工房を2カ所渡り歩き、吹きガラス職人として修行を重ねました。1つ目は作家性の高い豪華絢爛な作品を作る工房で、厳しい職場環境の中、親方の高い技術を側で見ながら習得していきました。「おかげで早く、正確に作る技術を身につけられました。口の薄い、シャープなスタイルは親方の影響です」と木村さん。2つ目は1つ目とは真逆のかわいらしい土産品を作る工房で、「お客様が喜んでくれること」を第一に考える姿勢を学んだと言います。1つ目の工房にまた戻り、親方の右腕として活躍した後、独立。最初はもの作りに対するビジョンが見えず、1年近くは模索する日々が続いたと言いますが、色濃く影響を受けた親方の作風からいったん離れ、実験的なもの作りを試すうちに、自分なりの作風を見つけていきました。現在は木工や陶芸、抽象画などを鑑賞したり、対話で人と向き合ったりすることを大切にして創作をしているそうです。
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意と匠研究所がサポート
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- 意と匠研究所は、これまでも、これからも挑戦を続ける木村さんを応援していきます。ここでご紹介する作品の売り上げの25%をいただき、木村さんの活動や作品について取材や原稿執筆、写真撮影、編集などを丁寧に行い、また今後の新規開発に対してもアドバイスを適宜行っていきます。
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特集「異彩!超絶!!のジャパンクラフト」だけの特典
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- 特集「異彩!超絶!!のジャパンクラフト」だけの特典として、作品の底面に手彫りでの名入れを承ります。アルファベット(大文字・小文字)と記号を合計3文字まで入れられます。ご氏名のイニシャルなどを入れたい方は、ご購入の際のアンケート画面にてお申し付けください。
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