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天然藍を使い、濃淡豊かな国産藍染革:福山レザーを開発
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- 波立つ浅瀬を思わせる淡い藍に、海底を覗くような深い藍、そして遠く見渡せば目をとらえるいくつもの島々…。絞り染めされた藍染革を眺めていると、穏やかな瀬戸内海の情景が目に浮かんできます。目を閉じれば、今にも涼風が吹き抜けていくようです。
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- 粉末状の天然藍を水に溶かして建て、国産革を紐でくくって絞り染めし、天日に干す様子
- そんな瀬戸内海の情景を写し取ったような国産藍染革を開発したのが、広島県福山市で皮革製品の製造・販売を営むレザースタジオサードです。同工房は10年前に地元の染料店の協力を得て、国産藍染革を独自開発しました。柔らかさを残しながら天然藍で革を染めることは非常に難しく、全国でも藍染革を製造できるメーカーはそれほど多くありません。同工房では天然藍を建てる際に還元剤を適量加えてpH値を調整することで、革の風合いが損なわれることのない藍染革を完成させました。さらにお客様に個性を楽しんでもらうため、同工房は革を手で絞り染めする手法を採用。その結果、濃淡さまざまな藍や染まりきれていない部分などが複雑に混じり合った、表情豊かな異彩・超絶の国産藍染革がこの世に生まれたのです。
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目指したのは地元の伝統工芸品、備後絣の藍染
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- この表情豊かな国産藍染革を見つめると、デニムのような表情にも見えます。それもそのはず、実は福山市では日本三大絣の1つである備後絣(びんごがすり)が江戸時代末期から生産されてきました。備後絣は藍染木綿の着物で知られ、戦後、それは国産デニム産業の礎になりました。同工房が目指したのは、まさに備後絣の藍染。
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- 備後絣に着目したのには、代表取締役の三島進さんが10年前に「サード観光地化」というビジョンを抱き始めたことが起因しています。これは同工房を全国からお客様を呼び込む観光地にし、福山市を活性化しようという目論見。観光地には特産品が必要というわけで、地元の伝統工芸品とのコラボレーションを模索した結果、備後絣に辿り着いたのです。同工房はこの国産藍染革を「福山レザー」と命名。それ以後も、福山市の特産品となるような新素材開発に積極的に取り組んでいます。
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革をこよなく愛し、お客様を大切にする革工房
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- 三島さんは、皮革製品の製造・販売を営む家に生まれました。子どもの頃から工作や美術が好きだった彼は、父に促されるまま、しかし楽しみながら父の仕事を手伝ったと言います。高校卒業後、バンド活動を経て、父が営む工房で正式に働くようになり、職人としての仕事を覚えていきました。その間、日本革工芸展に5回入選するなど腕をめきめきと上げていき、父からも認められるまでに。そして2007年に三島さんは独立を決め、レザースタジオサードを設立しました。
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- レザースタジオサードのモットーは「出来ないとは言わない」。つまり「お客様を喜ばせたい」という一心から、三島さんはお客様1人ひとりと丁寧に向き合い、ほぼオーダーメードで製品を提供することに努めてきました。そんな熱意ある姿勢に共感し集まったスタッフで、現在、同工房は運営されています。
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世代を超えて受け継がれるブランド作りを目指す
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- これまでオーダーメードでの製品作りを基本としてきたレザースタジオサードですが、2020年、ついにフラッグシップブランドを立ち上げました。それが「親から子へ、子から孫へ、受け継がれていく逸品を創る」という思いを込めたブランド「spin(スピン)」です。「spin」とは「紡ぐ」。まず3世代にわたって使われることを前提に、100年使える革製品を目指しました。表地にはしなやかで柔らかく、繊維がきめ細かいタンニンなめしの国産キップ(2歳未満の牛革)を使用。ユーザーにオイルメンテナンスを定期的に推奨すると同時に、糸のほつれや革のちぎれなどに関しては同工房が責任を持って補修を行い、年月を経た後には形を変えて新しい製品として生まれ変わらせるリメークまでも引き受けることにしました。真摯に製品作りに取り組んできた同工房にとって、これは究極のブランドと言えるでしょう。
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洒落者の美学に学び、裏地に国産藍染革:福山レザーを使用
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- 「spin」のデザインコンセプトに取り入れたのが裏勝りの美学です。江戸時代、贅沢を禁止する「奢侈禁止令(しゃしきんしれい)」の影響により、庶民の間では表地を地味にして、裏地を密かに豪華にする裏勝りが流行しました。特に襦袢や羽裏(羽織の裏地)に凝った刺繍や染物を入れる工夫が発達しました。羽織を脱いだ時にちらりと見える色柄や、自分にしか分からない装飾が大人の粋なお洒落とされたのです。レザースタジオサードは「spin」の第1弾として「福山レザー」である国産藍染革を採用し、それを表地ではなくあえて裏地に使うことを決めました。中を覗いた瞬間、目にパッと飛び込んでくる表情豊かな藍の絞り染め模様。自分にしか分からないからこそ愛おしさが増し、また愛着も深まるのです。
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「革命」を意味する数字「5」をデザインに応用
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- 「spin」に取り入れたもう1つのデザインコンセプトが数字の5です。なぜ、5なのでしょうか。レザースタジオサードは常に革に命を宿す思いで製品作りに取り組んできました。「革」に「命」と書き加えると「革命」という言葉が浮かび上がります。実は数字の意味を解き明かす「数秘学」なるものが占術などであり、それによると変化や行動、さらに革命といった意味を持つ数字が5になるそうです。そこで同工房はあらゆる比率を1:1.5に、角をR15にするなどの設計基準を各アイテムに採用しました。いったいどの箇所がそうなっているのでしょう。詳しくは上のパターンを基にした解説図をご覧ください!
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素材がすべて革だから丈夫で長持ち、型崩れもなし
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- 一般的な革製品の裏地を見ると、布もしくは合皮が張られていることが多いのに気づくでしょう。しかしレザースタジオサードは布や合皮をいっさい使いません。なぜなら布や合皮から破れたり傷んだりすることが多いから。同工房の製品は金具や縫糸を除くパーツのすべてが革。適度な薄さにすいた革2枚を張り合わせて表地と裏地にすることで、ある程度の重量に抑えながら、丈夫で型崩れしない、長持ちする革製品が出来上がるのです。これは100年使えることを目指した「spin」のコンセプトと合致します。また断面の処理にも注力しました。一般的によくあるヘリ返しで断面を覆い隠すのではなく、革を切り落とした後に断面を丁寧に磨き上げる「切り磨き」で仕上げました。これは革2枚の張り合わせをより美しく見せるための処置であり、またタンニンなめしの革を使用しているからこそできる技法です。切り磨きには手間が非常に掛かり、熟練の技術を要しますが、ヘリ返しとは違い、先端まで均一の厚みなので破れる心配がありません。100年使えるための配慮はこんなところにも見られるのです。
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カードケース、サコッシュ、長財布をご用意
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- 今回、異彩!超絶!!のジャパンクラフトでご紹介するのは、「spin」のデビューアイテム3点です。身近な小物から「spin」をお使いいただきたいとの思いから、カードケース、サコッシュ、長財布をご用意しました。いずれも裏地に国産藍染革を使用している他、「スピンウェーブ」と称したR15カーブ形状をアクセントに用いました。また、国産藍染革をスピンさせたリボン「スピンブリーズ」をチャームとしてお付けします。それぞれのアイテムに装着させて持ち歩くのもおすすめです。1つひとつを長くお使いいただきながら、裏勝りのお洒落をぜひ存分にお楽しみください。
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意と匠研究所がサポート
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- 意と匠研究所は、これまでも、これからも挑戦を続けるレザースタジオサードを応援していきます。ここでご紹介する商品の売り上げの20%をいただき、同工房の活動や製品について取材や原稿執筆、写真撮影、編集などを丁寧に行い、また新規開発に対してもアドバイスを適宜行っていきます。
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ご注文からお届けまでのスケジュール
- ●2021年10月中旬〜 販売開始
●2022年1月中旬 販売終了、ご注文商品を製作開始
●2022年3月中旬〜 商品を順次発送 -