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水を新鮮に保ち、保温力も高い備前焼
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- 日本の六古窯のうち、もっとも古い歴史を持つ備前焼。「ひよせ」と呼ばれる田土を原料に、釉薬を掛けずに焼き締めの技法で焼成する点が、他産地とは異なる大きな特徴です。そのため土そのものの味わいを持ち、力強い美しさを秘めています。伝統的な登り窯を使う点も特徴で、窯の中で被る炎や灰、炭が土の表面にさまざまな色と模様を残し、唯一無二の「景色」を作ります。これが釉薬や絵付ではなく、「窯詰めで絵を描く」と言われる所以です。また備前焼の内部には微細な気孔があり、それを通して通気性があるため、水を常に新鮮に保つ特性があります。さらに保温力が高いので、昔から茶器がよく作られてきました。そんな水との相性が良い備前焼だからこそ、おいしいコーヒーを淹れられるのではないか。そう着目したのが、鳴瀧窯(なるたきがま)を営む陶芸家の安藤騎虎さんです。
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プロダクトデザイナーとの出会いが道を開く
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- 「都心のライフスタイルショップに備前焼の器が並んでいないことに対して、以前から疑問を持っていました。その理由は簡単で、今の時代のニーズに合っていないから」と安藤さんは話します。そこで安藤さんは独立してまもなく「1点物の作品だけでなく、量産できるプロダクトを作ろう」と決意します。きっかけは、2012年に協同組合岡山県備前焼陶友会が主催したプロダクトデザイナーとの商品開発事業に参加したことでした。そこでプロダクトデザイナーの仕事に刺激を受けたと言います。また手を組んだプロダクトデザイナーに「フォルムがきれい」と褒められ、薄作りのロクロ技術が自分の持ち味であることに気づけました。それは人によっては「備前焼らしくない」と言われる要素でしたが、安藤さんは「むしろ多くの使い手に喜んでもらえる」と前向きにとらえたのです。
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スタイリッシュなコーヒードリッパーを作る
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- 以後、プロダクトデザイナーとの交流は続き、ある時「ブルーボトルコーヒーがまもなく日本に上陸し、サードウェーブコーヒーが流行する。だから、日本でもハンドドリップコーヒーがまた流行るかもしれない。備前焼でコーヒードリッパーを作ってみては?」とアドバイスされました。安藤さん自身も、以前からプラスチック製のコーヒードリッパーを「機能がむき出しの道具でしかない」と感じ、あまり好ましく思っていませんでした。お客様からも備前焼でコーヒードリッパーを作ってほしいという要望を聞く機会があり、ニーズを秘かに感じていました。そこで従来にはないスタイリッシュなコーヒードリッパー&サーバーを作ろうと決心したのです。
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3〜4杯用の砂時計形を最初に開発
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- 最初に開発したのが砂時計形の「Hour Glass(アワーグラス)」でした。その名のとおり、天地に向かって面が大きく開いて、真ん中がくびれている形状は砂時計を思わせます。この滑らかで美しい曲線は、安藤さんの優れたロクロ技術の賜物。砂時計の砂がゆっくりと落ちるように、コーヒーを淹れる時間をゆっくりと味わってほしいとの思いを込めました。さらに備前焼の代表的な景色の1つである「緋襷(ひだすき)」を採用し、独特の表情を与えました。緋襷とは、窯の中で作品同士が触れるのを防ぐため、間に藁を挟んだり巻いたりして焼成することで生まれる景色で、藁と土の成分が化学反応を起こして緋色の線が表れる点が特徴です。サーバーは底が広く安定感があり、3〜4杯はたっぷりと淹れられる大きさです。一方、ドリッパーはコーヒーをおいしく淹れられる円すい形で、本格的なネルフィルターを採用。ただし、もっとカジュアルにハンドドリップを楽しみたい方のために、ペーパーフィルターを取り付けられるアタッチメントも開発しました。
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究極にシンプルな1杯用の形を追求
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- さらに1杯用のコーヒードリッパー&サーバーを開発する機会が訪れました。レクサス主催のプロジェクト「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT 2016」の「匠」が一般公募されているのを知り、これを新たな挑戦の場ととらえて応募。多くの応募者の中から見事に岡山県の「匠」に選ばれました。究極のシンプルを目指した安藤さんは、砂時計形を発展させ、一見、コーヒードリッパー&サーバーには見えない円筒形を作りたいと考えました。つまり2つの円筒形を重ね合わせると、長細い円筒形となるような造形を思い描いたのです。またサーバーがカップを兼ねられれば、よりシンプルな道具となるのではないか。先のプロダクトデザイナーからもアドバイスを受けながら、これが道具として成り立つかどうかという点や使いやすさ、機構などを検証し、2つの円筒形に対して最適な高さと直径を割り出していきました。
こうして完成した円筒形の「nagom(ナゴム)」は、プロダクトデザインの考えを積極的に取り入れ、精度の高いロクロ技術を発揮した安藤さんだからこそ生み出せた、異彩・超絶なコーヒードリッパー&サーバーなのです。「Hour Glass」と同様に本格的なネルフィルターを採用しつつ、ペーパーフィルターも使用できるアタッチメントを装備。緋襷の景色を生かした「nagom BASIC」と、登り窯で焼成した「nagom PREMIUM」の2種をラインアップしました。 -
日本の歴史や伝統文化を伝える
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- 安藤さんは少年時代を家で独り過ごしたと言います。近代文学の本をよく読んだことから、日本の歴史や伝統文化に興味を持つようになりました。「もの作りをしたい」と思うようになったのは、それが日本の歴史や伝統文化に携われる仕事だと思ったからです。両親が工芸品の展覧会や販売会に行くのが好きで、子どもの頃によく付いて行ったことも影響しました。23歳の時、父の知り合いの備前焼作家の個展を観に行ったことがきっかけとなり、幼少の頃に過ごした岡山県へ移住することを決意。研修所に2年間通い、作陶の基礎を身につけ、ある備前焼作家に弟子入りしました。そこで5年間修行を積み、30歳で独立。空き家となっていた古い窯を買い取り、自身の鳴瀧窯を開きました。もの作りを通して日本の歴史や伝統文化を使い手に伝える努力をする一方で、安藤さんは「伝統は革新の連続」という考えにも共感。「未来になって現代を振り返った時、自分の仕事が革新的であったらいい」と力強く話します。
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意と匠研究所がサポート
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- 意と匠研究所は、これまでも、これからも挑戦を続ける安藤さんを応援していきます。ここでご紹介する作品の売り上げの20%をいただき、安藤さんの活動や作品について取材や原稿執筆、写真撮影、編集などを丁寧に行い、また今後の新規開発に対してもアドバイスを適宜行っていきます。
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各作品につき先着3名様に豆皿をプレゼント
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- 特集「異彩!超絶!!のジャパンクラフト」だけの特典として、各作品をご購入いただいた先着3名様(合計9名様)に、安藤さんが製作した備前焼の豆皿をプレゼントいたします。コーヒーのお供に、お菓子皿などにぜひご利用ください。
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