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【2023年5月1日】新着情報
- 授業時の動画をご覧ください!
「センスのある親子やな、って思いますね。街なかで見かけたら」。
デザインに臨み、完成させた学生たちの声をお届けします。 -
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親と子をつなぐ、翼の生えたパールジュエリー!真珠の生産地の危機に、大学生が立ち上がった
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- 京都芸術大学准教授の岡村暢一郎です。結論を先に申し上げます。「親と子で一緒に着けられる」「世代を超えて共有できる」、そんな真珠アクセサリーをつくりました。真珠に興味のなかった人にこそぜひ挑んでほしい(私のようなおじさんでも意外なほどにしっくりきます)、そんな装飾アイテムです。
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- 企画・デザインに臨んだのは本学の学生たちです。「冠婚葬祭だけではない、全く新しい真珠のカテゴリーをつくり上げる」を目標に掲げて1年がかりで完成させました。
- お父さんと息子や娘、お母さんと息子や娘、つまり「親子をつなぐ」ためのアクセサリー、学生たちはそう力説します。いや、祖父母と孫でも一緒に身に着けられますね。年代もジェンダーも問わない、ありそうでなかった真珠の逸品だと確信しています。
- なぜ必死だったのか。もちろん理由があります。授業の一環でただ単に「産学官連携プロジェクトを学生が体験しましょう」という話ではなかったのです。順を追ってお話しさせてください。
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製作者の想い
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羽パールがあるじゃないか
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- 愛媛県の宇和島市は真珠の産地ですが、コロナ禍による売り上げ激減と稚貝の死滅により、産地存亡の危機に陥りました。つまり、販売と生産の両面で苦境にあえいでいるのです。
- 私は産地のそんな声に触れて、「リアルワークプロジェクト」という科目で学生たちに新商品を考えてほしい、という課題を出そうと決めました。宇和島の人たちが手を携えてくれたのが心強くもありました。
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- 真珠を育てる漁協の皆さんが真珠の提供を決断してくれたうえに、販売に携わる組合、そして宇和島市の職員、さらには日本真珠振興会の参与や老舗百貨店の部長までもが、この科目の運営に加わったからです。
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- 宇和島の漁協が拠出してくれたのは…。「羽(はね)パール」と業界内で呼ばれる真珠です。真珠というとまんまる(真円)の形を想起しますね。でも、この羽パールには生育の過程で出っ張りがついてしまっています。
- この羽パール、値段がほとんどつかない規格外の真珠であり、漁協の倉庫の中で眠ってしまっていたそうです。でも、真珠生産が壊滅的な状況ですから、なんとかして、そんな羽パールを生かせないか。漁協の皆さんはそう考えましたが、活路が見いだせない。いや、芸術を学ぶ学生たちならば…。
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「これ、カワイイ!」と学生が…
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- 学生たちは、宇和島の漁協の皆さんが運んでくれた羽パールを目にして、こう言い切りました。
- 「これ、カワイイ!」
- その出っ張りを規格外だとしてしまうのではなくて、真珠にとても美しい翼が生えていると解釈したのです。では、そこからどう動くか。
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- 「真珠って冠婚葬祭のために大人が着けるイメージがあるけれど、そこから脱却させたい」と学生たちは宣言しました。「全く新しい真珠のカテゴリーを、自分たちの手でつくってみせる」と…。それまで真珠になじみのなかった学生たちはまず、みずから真珠を身に着け、そして学園祭で真珠をテスト販売してみるなど、実地で試行錯誤しました。そのうえでオリジナルの商品化に向けたデザイン作業に挑んでいます。
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- ただし、最初の商品案は、ネックレスの派生形にとどまるようなデザインで、正直いって既存のイメージを打ち破るところまでは果たせていない印象でした。本当に羽パールのかわいらしさを生かせているのか。担当教員の私だけでなく、授業のためにわざわざ宇和島から京都まで遠征してくれた漁協や販売事業者、宇和島市の職員さんは厳しくコメントしました。
- ただ単に商品化の企画をシミュレーションする科目だったら、まあこんなものか、とするところですが、現実に宇和島の皆さんは逆境にあるのです。だからここは踏ん張らないといけません。
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親と一緒に出かけたくなる
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- そこから、学生たちの表情は明らかに変わりました。
- もう一度、自分たちがゴールと決めた「新カテゴリーの創出」「冠婚葬祭ニーズを超える商品の発案」に向けて真剣になったのです。その結果…。
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- 「親と子」というキーワードを学生たちは見いだしました。ちょっとした休日の外出時にも一緒に着けられる、あるいはひとつの装飾アイテムを共有できるというような、です。「親と子をつなぐ」とはつまりそういう話であり、この真珠アイテムによって会話が生まれればうれしい、としました。
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- 今度は、関係者の全員がそろって賛同しました。学生のデザインをもとに地元の真珠宝飾品メーカーの手によって完成したのは、次のような商品です。
- 「イヤーカフ」。ピアスの穴をあけていない人も、留め具によって耳にきれいにはめられます。まさに耳に翼を着ける、そんなデザインのアイテムです。写真をご覧ください。20歳前後の学生にも、私たちのような年代にも、思いのほか似合うと感じています。「これ、なに?」と誰かが声をかけてくれそうです。学生たちは「親と一緒に着けて歩いてみたい」といいます。
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- 「ピアス」。ピアス穴のある人であれば、こちらも選択肢です。学生たちは「イヤーカフとピアスを同時に着けると、6連の羽パールで耳を彩れる」と話していました。
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- 「ブローチ」。耳に着けるところまでチャレンジするのはちょっと、という人にこのアイテムはどうでしょうか。木の枝をイメージした部分の曲線が絶妙な仕上がりで、羽パールの形状がまさに生きたデザインです。
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- そしてもうひとつ。産学連携で協力している真珠宝飾品メーカーが、「この機会にぜひ真珠に親しんでほしい」とウェビナーを開催します。羽パールをあらかじめお送りして、オンラインでアクセサリー製作をご一緒しましょう、という企画です。こちらもぜひご検討ください。
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- ※ワークショップで作成予定のアクセサリー例
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プロジェクトの詳細は以下動画も是非ご覧ください。 -
・Ms.pearlクロストーク 1~翼の生えた、パールジュエリーの誕生~ -
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・Ms.pearlクロストーク 2~Ms.pearlと#with pearlこの企画はこうして始まった~ -
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・Ms.pearlクロストーク 3~羽パールに込められた生産者の想いと、学生が肌で感じたその魅力と可能性~ -
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真珠の産地も、学生も「本気」
- まず、このプロジェクトで強調したいのは、宇和島の真珠関係者も自治体も、そして京都芸術大学の准教授も学生たちも、まさに「本気」で臨んだというところです。
- こうした産学官連携の商品プロジェクトというのは、ややもすると中庸な結論で折り合いをつけようとするケースがあります。そこに学びがあればいい、あるいは、事業者や地域行政と大学の間でコラボレーションできたことに意義がある、というふうに…。でも今回は違いますね。
- 倉庫で眠ったまま世の中に出なかった羽パールに、学生たちは息吹をもたらそうと真剣に挑みました。商品に独創性が弱かった時点で大人たちは躊躇なくダメ出しをかけました。
- つまり、危機的状況にある地場産業をなんとかせねばと、全員が本気で取り組んだわけです。その結果、「これ、なに?」と興味をそそられるアイテムが完成しました。
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「当たり前」を疑った結果…
- このプロジェクトには、私自身も授業に参加するなど、この1年関わってきましたが、大事なのは「当たり前」を疑う作業であったと感じています。
- 「若い世代は真珠に縁がない」「大人の男性は真珠をまず身に着けない」「真珠といえば冠婚葬祭」。こうしたひとつひとつの「当たり前」を、学生たちはデザインの力で打ち破り、新しいカテゴリーを生み出そうと懸命に取り組みました。
- できあがったアイテムは、もう本当に心躍るものになっています。
- 私のような50代にとっては「週末の冒険」ができそうです。ちなみに真面目を絵に描いたような人でも、ちょっと悪めを気取っている人にも、不思議なほどに似合うデザインです、本当に…。派手に思えるかもしれませんが、実際に着けてみると、イヤーカフもブローチも意外なまでになじみます。羽パールの実力か、学生たちのデザイン力の賜物か、いやその両方でしょうね。
- 私個人の話で恐縮ですが、2つそろえて、20代の息子と一緒にイヤーカフを着けて食事にでも出かけたいと思っています。ひさびさ息子と遊ぶきっかけにできそうです。
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