来日5年、一度でいいから作りたい

北村森(プロジェクト監修「ものめぐり」代表)

    • 密かな夢を実現させたチーズ

    • 2013年、北海道札幌市で立ち上げられたチーズ工房、ファットリアビオ北海道は、「日本のイタリア料理界を救う」一心で創業したのだといいます。

      輸入物のイタリアンチーズの価格が高騰し、国内のイタリア料理店は大変な目に遭っていました。だったら、イタリアから実力派のチーズマスターを招聘しよう、となったのです。

      創業するやいなや、ファットリアビオ北海道のチーズは、大反響を呼びました。イタリア人チーズマスターの作るチーズは、イタリアから輸入したチーズよりもはるかに美味しい、という評価が、国内料理界を駆け巡ったからです。

      なぜなのか? まず、北海道産の牛乳のレベルが、イタリアのそれを超えていたこと。それともうひとつ、輸入するのと違って、完成から配送まで1日あれば済みます。つまり、新鮮な状態で料理店に届くからです。イタリアンチーズの多くは、鮮度も命です。これは決定的な話でした。

      順風満帆なファットリアビオ北海道ですが、実は、このチーズマスターが、時折ぼそっと漏らす言葉がありました。

      「羊の乳で作ったリコッタを、一度でいいから、みんなに食べさせてあげたい」

    • 羊の乳は、飛び抜けて高価

    • ファットリアビオ北海道が製造販売するリコッタは牛乳が原料ですし、国内で流通している他のリコッタもほとんどがそうです。

      ならば、すぐにでも羊の乳で作ればいいじゃないかと思うところですが、話は簡単ではありませんでした。調べると、すぐにわかったのですが……。

      羊の乳は、牛乳に比べると、流通量があまりに少ないうえに、値段が飛び抜けているのです。牛乳のざっと30倍もします。

      さらに言うと、そんな高価な羊の乳を15kg仕入れたとして、完成するリコッタはわずか30個程度。もともとリコッタは贅沢なチーズとして知られていますが、羊の乳を使ったら、もう贅沢なんてものじゃなくなる……。

      それでも、ファットリアビオ北海道のスタッフは、羊の乳を探しに探しました。そして、北海道・北見の農場から分けてもらうことを果たします。

    • なまらうまい! 色気がある!

    • チーズマスターの手で、試作が始まりました。本人はもちろん、日本人の部下たちのまなざしも真剣でした。

      羊の乳を使って、できあがったリコッタを、チーズマスターが試食したとき、彼は日本語でこうつぶやきました。「なまら(すごく)うまい」。

      凄まじく官能的で、語弊を恐れずに言えば、実に艶めかしい味わいのリコッタが完成しました。ねっとりしていて、香りが立っています。何もかけず、何とも合わせず、もうこのリコッタ単体で口にし続けたい、そんな感じでした。

      これはリコッタ好きに限らず、一度は食べてみる価値ありと思います。一度は、と綴りましたけれど、今回の羊の乳のリコッタは、クラウドファンディング限定ですから、次の機会がいつ来るかもわかりませんしね。
    • プロジェクトを見る:「北海道産の「羊の乳」で 唯一無二のリコッタチーズづくりに挑みたい」